鉱物編 − 鉱物関連駄稿一覧、解題

ハワイ鉱物紀行・補遺

「ハワイ鉱物紀行」の載った前号が届いた直後に、鉱物同志会の例会が開催された。その席で、同志会会員の加藤俊夫氏より、愚稿を読んだから参考までにと、「Mineral Localities in the Hawaiian Islands」、つまり「ハワイの鉱物産地」なる英文資料を貸与された。 この資料は「Oceanic Volcano」という大部のハワイ火山について書かれた英書の付録(「Appendix A」)だそうで、加藤氏が以前ハワイに行かれたとき、事前に資料を探され、国立科学博物館でこれを見出してコピーされたということである。 4ページという短いものであるが、ハワイ諸島の鉱物と鉱物産地が記されてある。産出鉱物としては霰石、輝石、方解石、玉髄、ラブラドル長石、石膏、紫蘇輝石、黒曜石、かんらん石、黄鉄鉱、角閃石、石英、沸石が挙げられているが、これらの鉱物はいずれも筆者が駐在したオアフ島にも産出する由である。 事前に、またはハワイ駐在中にこの資料の存在に気付いていれば、もう少し実のあるハワイ駐在になったのにと悔やまれてならないが、これも筆者の怠け癖と英語力(図書館に行っても、洋書の山のなかから探しだす能力・気力がない!)のなせるわざであろう。 この資料のなかで前号の愚稿に関連のある部分は以下の通りである。

愚稿でカイルアベイビーチの沸石のことを報告したが、カイルア付近に沸石が産出することはこの資料にも記載されており、産出鉱物種として剥沸石、濁沸石、輝沸石、モルデン沸石、ノントロン石が記載されている。

また、「ダイヤモンドヘッドは(方解石の結晶がキラキラとダイヤモンドのように輝くところから名が付いた)とガイドブックにあるが、実際に登った筆者としては眉唾と思っている」と前稿で書いたが、これは眉唾でなく事実であり、方解石は凝灰岩中に産するとのことである。

さて、前号で「ハワイ大学の近くで、もう少しマニア向きの産地も見出しているので…結果がでれば改めて紹介する」と書いた。 筆者は大学グラウンド脇の崖の一部に走る脈から最長5ミリの白色六角柱状の結晶鉱物、最長1センチの緑黒色偏平柱状結晶鉱物やこれらと共生する各種の微小な沸石様結晶鉱物を得た。帰国して瀬山春彦博士の協力でX線回折テストを行い、最初のものが霞石、次のものがふつう輝石、もっとも多い沸石が灰十字沸石であることまで確認した。霞石は日本では稀産鉱物だし、ひょっとすれば未報告の産地かもしれないと思い、上記のように書いたのだが、本資料の最後の一節を読んで愕然とした。以下その部分を訳出する。

「多分ハワイ諸島の鉱物産地でもっとも有名なのはマノア渓谷のとば口にあり、現在は大学のグラウンドになっている昔のモイリリ採石場であろう(筆者註:モイリリは地名。筆者はそのモイリリに住んでいた)。採石場は渓谷の西縁のシュガーローフの裂け目から渓谷に流出した厚い黄長石霞石岩(melilite nephelinite)の溶岩流を採掘していた。溶岩固結の最終段階でガスが岩石の割れ目に沸石として晶出した。沸石は菱沸石、灰十字沸石とトムソン沸石である。沸石に伴って小さい六角板状の霞石("hydronepheline")、暗緑から黒色の針状の輝石そして灰色針状の燐灰石が産出する。採石場はもはや活動をやめ、その壁は草木で覆われ、残念ながらこれらの小さいながら興味ある鉱物はもはや見出すのは容易でない。」

無知というのは恐ろしい。筆者が見出したと思っていたのは、上記のバリエーションに過ぎなかったのだ。 思えば恥ずかしい駄稿を書いたものであるが、これが契機でこの貴重な資料の存在がわかったのだからもって瞑すべきであろうし、機会があればぜひ、この資料をもってハワイを再訪したいものと願っている。 さらに加藤氏からはハワイ島ヒロのライマン博物館に立派な鉱物標本が展示されていることもご教示いただいた。

また、藤本雅太郎先生からもオアフ島の岩石・火山噴出物についての文献「オアフ島の沸石質パラゴナイト凝灰岩の性状と成因」(飯島他、地質学雑誌Vol.73 No.11 1967)をご教示いただいた。前号の愚稿には直接関連しないが、ベースになる造岩鉱物としての各種沸石や黄長石霞石岩に言及しており、必ずしも十分に理解できたわけではないが、非常に勉強になったし、先生は霞石に伴うふつう輝石の顕微鏡写真も撮影してくださった。

加藤、藤本のご両名、およびX線回折試験の指導をいただいた瀬山博士ならびに愚稿を掲載いただいた本誌主宰の高田兄に深く感謝する。