環境漫才への招待

リサイクルと自治体

―センセイ、今号こそは環境省昇格問題ですね。

―うん、それで先日上京して環境庁に顔を出してきた。で、つぎのような話をしてきた。


―A君、久しぶりだね。

―やあ、センパイじゃないですか。環境庁をクビになったと思ったら、いつのまにか田舎でセンセイをしているそうじゃないですか。で、何を教えてるんですか?

―(憤然として)環境行政、環境政策に決まってるじゃないか!

―えっ、センパイが? ウッソオ!

―(あきらめ顔で)ま、信じてくれないかもしれないけどね。ところで、今日は取材に来たんだ。来年、厚生省から廃棄物行政が移管されて環境庁から環境省に昇格するよね。そうなるとなにか大きく変わることはあるの?

―ええ、名刺屋とハンコ屋が儲かることは間違いないですね。

―そのことはもう書いた! 他には?

―さあ? 別にないんじゃないですか。人事もさっぱり見えてこないし。どうせぼくら技術屋のポストが増えるわけもないですしね、忙しくなるばっかりで。

―やれやれトップは循環元年だとはしゃいでいるのに。君らは疲れてるんだねえ。


―というわけで今号こそはと思ったけど、環境省昇格に関しては書くことはなにもないよ。

―情けないセンセイだなあ。それでも環境庁OBですか!

―ゴメン ん?、なんで君に謝らなくちゃいけないんだ!

―で、今号の話題は?

―まずは本誌のレゾンデートルである廃棄物・浄化槽行政の話題だけど、容器リ法が完全施行されて半年だというのに、最後に施行された「その他紙製容器包装」「(ペットボトル以外の)その他プラスチック容器包装」の分別回収に市町村が非協力的で、ほとんどの市町村で実施していないという話題が新聞にでていたね。

―なぜですか。もともと市町村が要望して国に作らせた法律でしょう?

―そう、市町村としてはダイオキシン騒動のあおりで、焼却施設新設や最終処分場の確保がむつかしくなって、なんとしてもごみ減量化対策をとらざるをえなくなった。そこで、ペットボトルだのなんだのというものは生産者に回収処理させるべきだという拡大生産者責任を盛り込んだ法律を国に要求してきた。それで厚生省もその気になった。だけどやっぱり壁は厚かった。

―というと?

―産業界が猛烈に抵抗して、結局処理再生は産業界の責務になったけど、そこへ行くまでの分別回収は市町村がやることになった。そうすると全市町村に押し付けるわけに行かないから、やる気のある市町村だけでいいということになった。一方ではリサイクルすべきだという世論もあるので、かなりの市町村でペットボトルなどの新たな分別・回収を開始した。はじめてみると猛烈に手間とカネがかかり、おまけにせっかく回収したものも処理能力がおっつかないから、受け入れを拒否される事態も出現、しかもリサイクルできるようになったからといってペットボトルの生産消費廃棄量は増えてしまった。これじゃあ馬鹿馬鹿しくてこれ以上はやってられるかという気分になるよね。そして最後に残った「その他紙製」と「その他プラスチック」の分別がきわめてむつかしい。

―どうしてですか? 「その他紙製」って菓子箱、「その他プラスチック」ってトレイとか卵パックでしょう?

―種類は山ほどあるよ、ゴミ箱の中をみてごらん。しかも紙などが混ざると再生ができないから、完全に分別しなくちゃいけない。でもねえ、紙とプラスチックやビニール、ポリエチレンなどの複合製品が数え切れないほどある。消費者に完全に分別しろったって到底無理だよね。保管場所だって確保しなくちゃいけないし、まったく見通しがたたない。これに関しては容器リ法はムリだったね。

―ふーん、つまり産業界が負担を全部消費者と市町村に押し付けたからなんですか?

―そんなことはない。産業界も相当の負担を強いられてるのは事実だよ。

―じゃ容器リ法は企業、行政、消費者の三方一両損ですね。だったら市町村にもうちょっとがんばってほしいですよね。その代わり環境がよくなるし、資源が節約できるし、地球にやさしい生活のためですもんね。

―さあ、それはどうかな?

―なんですって! どういうことです?

―リサイクルの過程で資源を使うし、エネルギーも使用するし、環境負荷も出す。差し引き勘定はどうかということだよね。厚生省や環境庁は差し引きプラスだって力説してるけど、昔から経済ベースに乗って民間で行われているリサイクル以外はマイナスだという話もある。例えば「リサイクルしてはいけない」(武田、青春出版、2000)なんかはそういってるよね。どっちかというとこちらが真実に近いかも知れない。

―なんですって! そんなバカな。じゃ、どうすればいいんですか!

―この本では経済的に合わない分別回収リサイクルなど一切やめて、全量燃やして燃えがらを保管、それを「ゴミ鉱山」として、将来の資源枯渇に備えろといってる。金属などは燃やしたってなくなるわけじゃないし、燃えるものは熱回収する。第一燃えるものって再生性資源なんだから、紙なんか燃やしちゃって、その分植林すればいいって。ま、これ自体は決してまちがってないよね。

―なーるほど、コロンブスの卵ですね。そうか、使い捨て社会って環境にやさしいんだ。

―(絶句ののち)ほんとうに君って洗脳されやすいんだなあ。頼むからオウムに行くなよなあ。

―だって、リサイクルすれば地球にやさしくないんでしょう?

―そのまえに「地球にやさしい」なんて言い方はやめたまえ。

―(激高して)どうしてですか、みんなそう言ってますよ。人間が好き放題して地球がこわれてもいいんですか。それでもセンセイは環境庁出身なんですか! センセイみたいな役人がノーパンシャブシャブの接待を受けてこの日本をメチャメチャにしたんだ! なんでこんなセンセイに付いたんだろう…(泣き出す)

―受けてないよ! カネも権限もない環境庁にそんな接待あるわけないじゃないか! (小さく)でも受けたかったなあ。 大体人間がなにしようが地球が滅びるわけないよ、ちょっとしたひっかき傷ができる程度。滅びるのは人間と可哀想に道連れにされる何割かの生物だけだよ。だから「地球にやさしく」なんて人間のゴーマン。「ヒトにやさしく」って言わなくちゃあ。

―なあんだ、そういう意味か。なーるほど、センセイに付いてよかったなあ。

―(小さく)ぼくは君なんかより清楚で聡明な女子学生に付いて欲しかったなあ。

―センセイに付くのはぼくしかいなかったんです!

―なんだ、聞こえてたのか。ところでさっきの話だけど、「ごみ鉱山」をどこに作ればいいの? そんなの周辺住民が納得すると思う? ごみ処理場を作るのが住民の反対でむつかしくなったからこそ、リサイクルしなければいけなくなって試行錯誤してるんだよ。武田先生や君がごみを押し付けられる住民にこれは鉱山だからと言って説得できる? ※ NIMBYだって批判するわけ? ※ NIMBY:ナット・イン・マイ・バック・ヤード「(必要なのはわかるけど)私の裏庭にはゴメン」 という地域エゴを揶揄するコトバ。

―だからオカネを出せば…

―札束でほっぺたをひっぱたくそのやり方が通用しなくなったからこそ、循環型社会が言われだしたんじゃないか! あれだけ手厚い保護を受けてる原発地域だって住民投票でノーって言い出してるんだよ。

―(ふくれて)じゃ、どうすればいいんですか?

―(明るく)特効薬なんてないに決まってるじゃないか。きっといまは過渡期で産みの苦しみの時期なんだ。拡大生産者責任を徹底して上流対策をするしかないね。つまり耐久消費財は逆流通ルートでの処理再生を義務付ける。それ以外の製品にはやはり逆流通ルートでの処理再生か目の玉の飛び出るほどの処理税を価格に加算するかの選択制。リユース産業には税の優遇措置。そうしたら資源やエネルギーや環境負荷を増やすようなリサイクルしかできないような製品や工場は自然と消えていくよ。そうすれば当面物価は高くなるし、倒産する企業が続発するけれど、その時期を耐え抜けば新しい社会ができるかもしれないね、はっはっは。

―(暗くなる)よくそんなことを明るい顔で言えますねえ!

―ま、でもその予兆がないわけじゃない。

―えっ、ほんとうですか。

―たとえばこのあいだの長野知事選。

―どういうことですか、あんなのノックや青島と同じで単なる知名度だけでしょう。しかもスッチーといっぱい楽しくやりやがって、ぼくなんてガールフレンドもいないのに。(涙ぐむ)

―まあ、下半身に関してはぼくもそう思うけど、でもノックや青島や慎太郎とちがって大した知名度じゃないよ。阪神大震災のボランテイアと神戸空港反対運動への献身ぶりが評価されてかつぎだされ、勝手連ができちゃった。それに県民が反応したんだと思うよ。公共事業は一旦ゼロから考えるなんて、公共事業頼みの長野県で通用するはずないのに。旧態依然たる官僚候補によっぽどあきあきしたんだよねえ。

―で、センセイは田中康夫に期待してるんだ。

―というより、田中康夫を勝手にかついで反乱を起こした無名無数の県民にね。ここになにかの可能性があるかもしれない。その波が全国を席捲すれば、産業界に徹底した上流対策を講じさせることだって可能かもしれない。そうとでも考えなければ救いがなさすぎるよ。そしてもう一つ今月に入ってW県の国立公園に隣接したS港沖合埋立計画が事実上凍結されたこと。

―なんですか、それは?

―うーん、話せば長くなるから、いつか機会があれば話すよ。公共事業見直しと廃棄物問題、それに市民運動にも関係するし、いささかながら個人的な感慨もあるからね。

―K県の話はないんですか。

―うーん、思うことないわけじゃないけれど、ぼく自身内心忸怩たるものがあるし。ま、その話はいいじゃないか。それよりも東京都日の出町の廃棄物処分場の拡張でついに行政代執行が行われた。

―でも仕方ないでしょう。だってそうしなければ多摩のごみはどうにもならないんでしょう?

―そりゃそうだ。でもねえ、そのまえの対応がひどすぎた。徹底したデータ隠しをやり、裁判所の命令で渋々公開した。これじゃあ、信頼をなくすよねえ。しかもごみ減量の展望がまるでない。まあ、現在の自治体の権限じゃどうにもならないんだけどねえ。だからこそ、情報を公開し、住民とともに国と産業界を撃つ姿勢を見せつつ、緊急避難としての処分場拡張

―というんなら理解が得られたかもしれない。おまけに慎太郎の発言が神経を逆撫でしたよねえ。

―なんと言ったんです。

―遊びに行った小笠原で「環境問題にかまけて、住民でもない連中がちゃちな反対のための反対をしたって世間が許さない」と言ったんだって。ここにはツケを押し付けられる地域の人々に対する、為政者としての痛みがまったく感じられないね。やっぱりこいつはクズだ。クズを選んだ都民が悪いと言えばそうだけど、まえが青島だし、大阪だとノックだもんねえ。かといって役人OBでもどうにもならないし。前門のクズ、後門のゴミか。廃掃法でこういうのを処理できないかねえ。ん、むしろゴミとクズとの合併処理浄化槽かな。

―ふーん、でもセンセイがいまでも役人だったらどうします? いや、万が一知事になったら。

―君、それを言っちゃオシマイ! もう単位やんないからねえ。 (十一月一日)