環境漫才への招待

環境行政2002-2003

―センセイ、明けましておめでとう!

―お、キミは××クンじゃないか。どうした、関西で就職したんじゃなかったのか。会社はクビになったのか。やっぱりなあ。(ひとり頷く)

―バカ、言わないでください。正月休みですよ、正月休み! ところで、春から浮かない顔してますねえ。めでたくないんですか?

―めでたくなんかないよ。(プンプン)

―どうしたんですか、ご機嫌斜めですね。

―新年早々から交通事故に遭った。おかげでわが愛車はスクラップだ。

―センセイ、ブレーキとアクセルを間違えたんでしょう。運動神経鈍い上に、お屠蘇が入っていて。で、怪我はなかったんですか。

―冗談じゃないよ、家族三人でドライブに行って、広い道路わきに停車して、道路地図をみていたときに、突然後ろから激突された。クルマは大破、幸い三人ともシートベルトをしていたから、無傷だったけど、降りて愛車を見たらマッツアオ。みるも無残にトランクがペシャンコなんだもの。警官がこれで怪我がなかったなんて奇跡だと言ってたよ。

―じゃ、無過失なんだから、保険会社からふんだくれるんじゃないですか。

―慰謝料はともかくとして、実際に受けた損害だけは満額補償してくれるかと思ったら、とんでもない。廃車の費用だってこっち持ちなんだぜ。

―えー、なんでですか。

―クルマはいずれは廃車になってそのとき費用がかかるのが、早まっただけで、損害とはみなさないんだって。そんなのありーって感じだよ。

―へえ、保険ってそんなものなんだ。

―ああ、で、いまだ保険会社と交渉中だ。わずらわしくっていやになってくるよ。まあ、交渉経緯と結果はいずれ時報に発表するつもりだけど。

―それはいい、事故ってこわいですもんねえ。独断と偏見だらけの「環境行政ウオッチング」なんかより、よっぽど世のため人のためになりますよ。

―うるさい、それにしてもキミ、一年ぶりの登場だな。久々に「環境行政ウオッチング」をはじめようか。第一回は昨年の総括をやることにしよう。キミはいまだって環境行政に関心あるんだろう。

―そりゃ、そうですよ。こう見えてもセンセイのゼミの卒業生ですもん。でも、あんまり脱線しないでくださいね。イラクや北朝鮮の問題で、いいたいことはいっぱいあるでしょうけど、これは「環境行政ウオッチング」ですからね。

―わかってるよ。できるだけ環境行政に話を絞るよ。でも、それに関連することならブッシュであろうがコイズミであろうが、きちんと批判はさせてもらうよ。役人上がりにも硬骨漢がいるということを見せなくちゃ。

―はいはい、センセイが「恍惚のヒト」だってのはよくわかってます。

―(気づいていない)そうか、キミも分かってくれてたのか。オーイオイオイ(感激のあまり泣き出す)

<京都議定書の行方>

―さあ、始めましょう。やっぱり去年の最大の成果は温暖化対策の進展じゃないですか。おととし秋のCOP7で京都議定書の実施にかかるルールが確定されましたけど、批准・発効がなされるかどうかはかなり覚束ないところがありましたよね。でも去年は飛躍的な成果がありました。日本でも京都議定書を睨んでの温暖化対策大綱が閣議決定され、温暖化対策法も改正、そして京都議定書自体も国会で批准されましたよね。EUなども同じ頃批准。カナダやロシアも来年には批准することを表明しましたから、これで京都議定書の発効要件クリアーは確実。それに世界第二位の炭酸ガス排出大国の中国も批准したそうですしね。残念ながら米国は京都議定書復帰はならなかったけど、昨年3月には独自の温暖化対策の発表も行い、炭酸ガス排出抑制に本格的に取り組むことになったじゃないですか。8月末から9月までのヨハネサミットでも政治宣言、実施計画が出されたけど、そのなかでも温暖化対策の推進が謳われ、秋のCOP8でもデリー宣言を出すなど、ほんとうに昨年は温暖化対策元年と言っていいんじゃないですか。

―お、割に勉強しているな。でも、どうかなあ。確かに京都議定書はスタートに向けて大きく前進したけれど、米国抜きの京都議定書がどれだけ意味あるものになるかだよね。必死になって温暖化対策にコストをかけているのに、米国だけはそれをしないっていうんだから、米国が経済でも一人勝ちするおそれなきにしもあらずだ。そうなったらEUと日本以外の国では、脱落するところが続出しないとも限らない。

―だって、米国だって独自の対策をとるって宣言したじゃないですか。

―そう、十年後にはGDP当たりの炭酸ガス排出を一八%カットするそうだ。

―すごいじゃないすか。えーと京都議定書では米国は七%カットだったんでしょ。

―時報の三三号を読んでないのか! GDP当たりのカットなんだ。そのGDPは毎年三%増大するそうだ。そうすると十年後には九〇年比で七%カットどころか、三五%アップになるんだぜ。これのどこが新たな対策なんだ。大体GDPあたりの排出量は日本は米国の三分の一だ。たった一八%カットなんてちゃんちゃらおかしい。ほとんどなにもしないと言っているに等しい。

―そうか、それでセンセイの血圧が上がるわけだ。で、米国を京都議定書に復帰させるために米国の言い分をもっとそのなかにいれるべきだというんですか。

―冗談じゃないよ。現在の京都議定書は先進国全体で九〇年比五・ニ%の削減しかやらないんだ。一方、IPCCでは温暖化ガスの安定化のためには、いまただちに化石燃料使用を6割カットしなければいけないと言ってるんだぜ。その程度の削減ですら容易でないからと称して日米は柔軟性措置と称するさまざまな抜け道を主張、COP3でいわゆる京都メカニズムが定められた。その京都メカニズムの細目をめぐって以降ずうっと日米とEUが対立。米国が離脱宣言したあとも、米国復帰を容易にするためと称して日本は米国の主張をそのまま繰り返し、ついにその言い分を飲ませたんだ。これ以上米国の言い分を取り入れるなんて、泥棒に追い銭だし、未来の世代に対する背信行為だよ。

―じゃ、どうすればいいんですか?

―ヨハネサミットで国務長官のパウエルがブーイングされ立ち往生したろう? ああいう風に国連でもWTOの場でも米国を道義的に孤立させればいいんだ。大体日本なんて米国の最大の債権国なんだからコイズミがへいこらする必要なんてまるでないよ。大体ねえ、こんどのイラク問題なんてのは、石油利権のためのいいがかりでしかないのは誰の目にも明々白々。それでも欧州諸国は内心はともかくとして米国に渋々お付き合いしようとしていた。しかし、国民の反発が強く、そのお付き合いの姿勢も変わらざるをえなくなるだろう。こうした雲行きにタイムラグは生じるかもしれないが、必ずや米国でも揺り戻しがくるよ。だから日本も嬉々として米国の尻馬に乗っていると、二階から梯子を外されることだってあると思うよ。米国との距離をせめてEUなみにとることだね。

―センセイ、そりゃあまりにもリアルポリテイックスに無知すぎますよ。環境問題だけで国際政治は動いてるんじゃないですから。

―わかってるよ。でも、そのくらいは言いたくなるじゃないか。アフガンからイラクまでやりたい放題。悪の枢軸だかなんだか知らないけど、ぼくに言わせりゃブッシュこそが・・

―ストップ! それ以上は言っちゃダメです。それにセンセイ、そんなことを言うとテロを擁護しているように思われちゃいますよ。

―冗談じゃない。九・一一が米国の暴走を招いたんだ。九・一一は最高の戦術だったかも知れないが最悪の戦略だったというしかないね。アルカイダはCIAの手先じゃないかとすら思っちゃうよ。そしてどうも戦争と言う奴は短期的には国民のショービニズム、つまり排外的愛国主義を高揚させるものらしい。先日の中間選挙を見てもわかるようにブッシュの支持率は依然として高いものなあ。よく情報公開とか市民参加とかいうだろう? 米国はそういう意味ではまちがいなく日本より進んでるんだ。だから民主主義は必要だけど、必ずしも民主主義は正しい政策を導くものでないということを知っておいたほうがいい。

―センセイ、センセイ。日本の温暖化対策に話を戻しましょう。温暖化対策大綱を決めたり、温暖化対策法を改正したりして着々と進んでいるように見えるんですけど、実際はどうなんですか。

―産業、民生、運輸各分野ごとに削減率を定めたり、そのメニューを打ち出したね。ガソリンに植物系エタノールを混合させるとか、いろんな方策を打ち出しているし、農水省ではバイオマス戦略なんてのも打ち上げた。でもねえ正直言って九〇年比6%削減に向けての担保がまるでないよねえ。やっぱり炭素税の導入しかないんじゃないかな。炭酸ガスの排出が依然増えている民生や運輸部門だってそういう経済的誘導措置の工夫次第で低減は可能だと思うよ。そうしたほうが得で楽しいような社会システムにすりゃいいんだ。それこそがコーゾーカイカクなんだと思うよ。

―でも、国際競争に負けるからって通産省、あ、いま経産省か、とか産業界が猛反対で、環境省は力が弱いからできないんでしょう?

―そうでもないと思うよ。各省にしたって産業界にしたって、表向きは反対しているけど、そうなったときの準備は水面下で猛烈にしてると思うな。

―えー、どうしてですか。ボクには理解できない。三、四年まえセンセイはそんなこと言ってなかったじゃないですか。

―それはCOP3のまえだろう? 状況が変わったんだ。EUは第一コミットメント期には多分九〇年比8%削減はできると思う。また、それだけの成算があったからCOP3のとき15%カットなんて言い出したんだ。EUはすでに九〇年比三%カットに成功、約束の二〇〇八―二〇一二年には九〇年比八%カットを達成するだろう。京都の名を冠した議定書の約束をその日本だけが国際公約を守れないとなれば、世界の物笑いになるから、産業界も各省も炭素税導入は必至だと見てるにちがいない。だから、いまからそうなったときの生き残り策を練ってるよ。その証拠にいきなり経産省がエネルギー特別会計を見直し、非課税だった石炭に課税したり、天然ガスの税率を上げたりし、増税分の半分は環境省が使えって言ってきて、環境省は目をシロクロさせた。つまり環境省の先手を打ってきた。経団連もこんどの会長は容認発言までして、徹底抗戦の姿勢はみえない。こういうケースは他にもでてくるよ。例えば建設省、いまの国土交通省だって、脱ダムの模索をはじめたし、自然再生事業にも積極的だ。淀川水系ではもう新たなダムは着工しないなんて言い出した。林野庁だって緑の公共事業、つまり森林の保全再生のための雇用事業にも積極的になってきているし、こうした動きにいわゆる改革派知事たちも同調している。もちろん直接の目的・意図は別にあるんだろうけど、生物多様性というもうひとつのキーワードをうまく利用しているよね。各省の最大の眼目は、組織の維持と発展、権限と予算の拡大なんだ。そのためにはこんごとも環境省に権限を持たせないため、先手先手と打ってくると思うよ。

<環境の時代とはなにか?>

―つまり環境の時代は始まったけど、環境省の時代は来ないと。

―お、いいこと言うねえ。ザブトン1枚!

―でもちょっと悔しいでしょう。

―そんなことないよ。環境省の発展よりも環境の保全のほうが重要で、農政栄えて農業滅ぶの愚を繰り返しちゃいけない。環境省の権限は増えないかもしれないが、環境省の権威は増大するのは間違いないから、それでよしとしなけりゃ。

―カッコいい! でもそんなこと言えるのも退職しちゃったからでしょう。

―ばれたか(笑)。でもねえ、各省にしたっていつでもその方向に向ける準備をしてるってパフォーマンスのためのいわばショーウインドウ予算をぶちあげてるだけで、例えば年末に決まった政府予算案にしたって、額そのものは依然として圧倒的に従来型、つまりハードというかハコモノ予算だよ。環境省にしたって国立公園関係で言えば施設整備関係が圧倒的で、NGOやボランテイアと一緒に公園を管理しようなんて予算はほんと微々たるものなんだから。でもねえ、日本は七百兆円に及ぶ借金を未来の世代にしてるんだ。ハコモノを一割にして、浮いた予算の半分をこういうソフト予算に充て、残りを借金返済していくぐらいにならないとホンモノの環境の時代とはいえないと思うな。

―だって、そんなことしたらゼネコンなんて全部潰れちゃって大失業時代になっちゃうんじゃないですか。

―そうすると都会を離れて田舎に帰り、休耕田で有機農業をはじめたり、緑の公共事業予算で荒れた山野の再生に取り組む人たちがいっぱい出現する。収入は大幅ダウンしても、より人間らしい生き方が出来るかもしれない。循環型社会ってきっとこうしたスローライフをよしとする人たちがつくる社会だと思うよ。もっとも循環型社会がきちんと回っていくためには、人間が多すぎるよね。でも、少子高齢化時代が来たということは、そうした循環型社会の基礎が準備されてきたということでもある。

―でも少子化が進むとセンセイのような年寄りがいっぱいいて、それを人数の減ったボクたち若者で面倒みなけりゃいけないってことでしょう。冗談じゃないっすよ。そんなの不公平ですよ。

―しかし、キミたちの負担が増えるだろうけど、その老人が死んだときのキミたち一人当たりの遺産は増えるんだから、いいじゃないか。人生万事塞翁が馬。

<流産した廃棄物処理法抜本改正>

―うーん、なんだか誤魔化されたような気がするけどなあ。ま、いいか。で、廃棄物行政の方は昨年の総括はどうなんですか。一応クルマリサイクル法はできたし、各県では産業廃棄物税が出来たりしてるとあったけど。

―うん、それなりに進んできたと思うよ。でもねえ、ごみってのは元はごみじゃないんだ。―あったりまえじゃないですか。今ごろ何を言ってるんですか。

―だから、ごみの問題はもっと上流、つまりごみになる以前のところからやらなきゃ本質的な解決にならないんだ。

―(イライラ)そんなことぐらいわかってますよ。一体、なにが言いたいんですか。

―ごみになる前は製品で、そのまえは資源だ。例えば資源を考えてみよう。輸出と輸入の差はどうなってると思う。例えばキミは外国のバナナを食べるけど、その皮は国内でごみとして処理される。

―ほんと、いらいらするなあ。で、それがどうしたんですか。

―結論から言うと、毎年十億トンの輸入超過になっている。その一部がごみとなるんだけど、あとは製品として毎年蓄積されている。そうした製品は何時の日にか最後にはごみになる。この構造をアタマの片隅に置いておいたほうがいい。

―はいはい。

―「はい」は一度でいい。つまりごみ問題の終局の解決は国内での自給自足か、輸出輸入の量の差をゼロに近づけない限りはない。だから本来はごみとか環境の問題は資源の問題に帰着する。その証拠に、かなりの国では環境行政は資源行政と一体になっている。環境行政を司どってる役所は環境省じゃなく、自然資源省だとか資源環境省というところが多いんだ。

―問題は名称じゃなくて中身でしょう?

―名は体をあらわすっていうじゃないか!

―ごまかさないで、中身を言ってください。そうしたところの役人と話したんでしょう?−・・中身まではよくわからなかった。時間がなかったから。

―(ニッコリと)時間がなくてよかったですね。だって、センセイの英語はThank you とNice to meet youだけですもんね。

―うるさい、うるさい、やかましい、黙って聞け! ごみ問題の原則というか理念は三つのRと聞いたことがあるだろう? リサイクルよりはリユース、リユースよりはリデュースって。リデユースの一番はモノを買わないことだよね。一方じゃ不景気だ、内需拡大だ、つまりどんどんモノを作り、それを買えって進めてる。これが第二の矛盾。

―あーあ(おおきく欠伸)。はやくごみ行政の話に入ってくださいよ。

―しようがないなあ。つまりこうした矛盾のすべてがごみ行政に押し付けられている。それをごみ行政だけで解決しようとするから、どうしても無理がでる。ごみかどうかは有価かどうかで決まるから、古紙は市価によってごみになったりならなかったりするし、どう見たって産廃だのに、香川県の豊島のようにそうじゃないと言い張ることも可能だった。また概念的には家庭系一般廃棄物、事業系一般廃棄物、産業廃棄物は明確に区別されるけど、実際の現場ではかなりあやふやだ。そうしたものを抜本から見直そうというので、環境省の審議会でいろいろ検討された。

―で、どうなったんですか?

―そのまえに現行廃棄物処理法の処理責任の話をしておこう。産業廃棄物の場合は処理責任は排出者にある。昔はそれを排出者から委託された処理業者の責任にしたけど、それじゃあ解決にならないというので、処理業者と排出者つまり処理業者に委託した工場との共同責任とされ、一方規制も厳しくなったり、産廃税の動きもあたりして、事業者側では産廃そのものの減少、いわゆるゼロエミッションなどの動きも或る程度進んだ。一方、一般のごみのほうは市町村が処理するとされたんだけど、処理困難物やコストの増加、それに最終処分場の逼迫といろんな問題が出現、さいごに例のダイオキシン騒動で減量の切り札、ごみ焼却場の建設まで住民の反対でむつかしくなった。ぼく自身はダイオキシンのリスクというのは他の汚染物質のリスクと同等かそれ以下だと思うけど、要はそれまで都会のごみを押し付けられてきた地方のひとたちがダイオキシンをきっかけで反乱を起したんだ。で、出てきたのは産廃の排出者責任と同様の、拡大生産者責任という考え方、つまりごみとなる製品の生産や流通、販売に関わるものの責任ということだよね。すでに廃家電四品目など一部の製品についてはその考え方でリサイクル法が作られているけど、根本となる廃棄物処理法の抜本的見直しで、その原則が打ち出されるかどうか、廃棄物の定義の抜本的見直しとともに注目を浴びてたけど、結局はダメだったね。つまりごみ問題をごみ行政の問題だけで解決しようとしたからできなかった。

―というのは環境省のひとたちも言ってるんですか。

―いや、ぼくの独断と偏見。こんなこと内情知ったら多分言えないよ。幸いぼくはごみ行政の経験がゼロだから言えるんだ。ま、それでも従来の延長線上ではあるけど、事業者サイドの責任をさらに厳しく、またリサイクルを促進する方向で廃棄物処理法も改正されそうだ。ただねえ、リサイクルを進めることで、それがリユースやリデユースを阻害する面がなきにしもあらずだ。まあ、これを説明しだすと長くなるからやめておくけど、循環型社会を標榜するからには、リユース、リデユースをいかに促進するかの政策がこれから必要になってくるね。そしてこれは現行の縦割り体制ではどうにもならないんだ。

―うーん、なんか抽象論ばっかりだったような気がするなあ。あとは?

(生物多様性保全を目指して)

―循環と来ればつぎは共生に決まってるじゃないか。そのキーワードは生物多様性だね。去年、「新生物多様性国家戦略」が閣議決定された。改正前は国家戦略とはタイトルだけで、中身は各省の関連ありそうな既存政策を羅列して、美辞麗句でつないだだけだったけど、こんどのは中山間地域、これまで等閑視されていたし、また対応もむつかしい里地里山の問題を正面から打ち出したことは大いに評価できるよね。自然公園法や鳥獣保護法の改正にも、そうした問題意識が伺えるし、化審法や水質環境基準も生物多様性の観点からの見直しが進められてきている。自然再生法も制定されたし、農水省や国土交通省の新規施策もさきほど言ったように生物多様性という観点からも前進と評価できる。でもねえ、こうした政策の積み重ねだけで中山間地域の生物多様性を保全し、そこでの暮らしと自然の再生が可能になるかというと、やっぱり疑問だなあ・・ 

―じゃ、どうすればいいんですか。

―それを考えるのがキミたち若い世代に課せられた役目なんだ!

―そんな無責任なあ。ま、センセイのいい加減さはわかってましたから、いまさら腹も立ちませんけどねえ。あ、もう時間だ、ぼちぼちシメに行きましょう。ボクに早くお屠蘇飲ませてくださいよ。

<ふたりの田中>

―わかった、わかった。土壌汚染対策法、自動車NOx法等々各戦線でそれなりに成果を挙げていってるけど、そのあたりはこの次から見ていこう。

―ボクも疲れました。でも最後に一つぐらいなんか楽しいほのぼのとする癒し系の話しをしてくださいよ。

―最近では隣国の大統領選。あ、この話は内政干渉みたいだからやめておこう。長野の田中康夫の再選とか、尼崎の無党派女性市長誕生とか地方の反乱はまだ断続的に起きてるねえ。ハトかタカか、大きな政府か小さい政府かとかコーゾーカイカク派か守旧派か、とかいろいろ言われているけど、日本ではどの党派も結局は経済の発展、つまり経済成長派だよね。そりゃ経済発展が結果的にできればいいけれど、まずは環境だというような、ヨーロッパの「緑の党」のような部分が欠けている。その部分がこうした地方の反乱、改革派首長のネットワークから生まれないかと期待はしてるんだ。田中康夫なんてのはじつに面白いしなあ。

―うーん、ヤッシーか。ボクの天敵だ。あんな女たらしなんて嫌ですよ。

―じゃ、もう一人の田中さんだ! 学位もない一介の技術者がノーベル賞。おまけに謙虚だよねえ。報奨金が多すぎるとびびったり、役員昇格を荷が重過ぎると辞退したり、ほんと一服の清涼剤だよねえ。

―(ニッコリと)ほんとですよねえ。論文を書く能力も意欲もないくせに、学生をいびるだけのどっかの先生と大違いですよねえ。

―(むっとして)キミをお情けで卒業させてやったじゃないか!

―なに、興奮してるんですか、センセイ、なんか身に覚えがあるんですか。

―う、うるさい。

―はは、センセイったらすぐ冗談を真に受けるんだからオモシロイ。で、新年の見所は?

―三月に第三回世界水フォーラムが大々的に関西で繰り広げられる。閣僚級の国際会議やさまざまなシンポジウムなどが開かれる、これが単なるイベントで終わるのか、それがきっかけでなにか新しい動きがみられるのか、そのあたりを関西にいるキミの目でしっかり見ておくんだな。

―うーん、どうなるかわかんないじゃないかなあ

―どうして?

―所詮、水モノですからねえ。

(二〇〇三年一月)

お断り:新年から環境情報普及センターのホームページであるEICネットに「H教授の環境行政時評」を隔月で掲載しています(http://www.eic.or.jp/profH/h030109.html)。本誌とは話題の重複をできるだけ避けたいと思っていますが、今回は両方とも正月執筆になり、内容がかなり重複していることを、ご了承ください。また瀬戸内海環境保全協会の機関誌「瀬戸内海」(季刊)にも「H教授のエコ講座」の連載を今春号よりはじめましたが、本家本元は本時報であることを明記しておきます。