環境漫才への招待

40. 環境行政ウオッチング ― 環境行政2004-2005

H教授―モチじゃない、パンだ。

H教授―ほうっておいてくれ。還暦を迎えたんだ、歯も目も衰えるさ。 大体キミ、還暦祝いも寄越さなかったぞ。

H教授― ヒドイことをいう奴だなあ。

(スマトラ津波災害雑感)

H教授― うん、豪雨災害に中越地震で終わりかと思ったら、スマトラ地震だもんなあ。死者・行方不明が三十万人を越したそうだ。史上最大級の災害だ。浮かぬ顔をしていたとすればそのせいだよ。

H教授― そんなことはない、第一次・第二次大戦の死者はそんなものじゃないし、平時でもヒットラーやスターリン、ボルポトの大量虐殺はもう一桁上だ。ま、それにしても自然がいかにおそろしいかまざままざと実感させられた。

H教授― うん、去年を象徴する漢字として選ばれたのは「災」だった。「災」ってホント、こわいものなあ。(小さく)「妻」もこわいけど。

H教授― まあ、日本のような多発地帯ならそれなりに警戒態勢が取れたんだろうけど、インド洋ではほとんど経験がなかったみたいだから、人災だと責めるのは酷かもしれない。それにしてももう少しなんとかならなかったのかという気がするけどねえ。 あとイラクやアフガンでは戦争状態で、米軍がしょっちゅう大型ヘリを飛ばしててるんだから、それらを即座に、かつ大量に動員すれば、すこしは名誉挽回できたのに、時期も規模もピントはずれで、ほんとブッシュってバカだと思うよ。

(COP10−コップの中の嵐)

H教授― いや、残念ながら失敗だといっていい。だって主眼の★第二約束期間に向けての枠組み作りもほとんど進展がなかったから。

 ★京都議定書の削減目標は二〇〇八年から十二年を目標年としており、それを第一約束期間、それから以降を第二約束期間という。

H教授― そう。歴史は繰り返す、一度目は悲劇、二度目は茶番劇として・・・

H教授― (ギクッ)なんだ、知ってたのか。

H教授― チエッ、尊敬のまなざしで見てくれるかと思ってたのに。で、第二約束期間については日本は経産省サイドと環境省サイドで思いっきり足並みが乱れたなんてことが新聞にでていた。

H教授― まあ、ぼくも恥知らずだと思うけど、「COP」というのは気候変動枠組条約加盟国会議なんだ。米国は京都議定書を離脱したけれど一応条約加盟国だから参加する権利はあるのさ。今年十一月に開催予定のCOP11では議定書批准国会議MOPも併催されるんだけど、MOPでも傍聴者として会議をひっかきまわしそうだね。ほんと、ブッシュには「行け、歴史の屑籠へ!」といいたいね。

H教授― うるさいね、いちいちキミは。

H教授― 途上国の関心が高い温暖化による洪水、干ばつなどへの「適応」のための「5カ年行動計画」(ブエノスアイレス作業計画)を策定することが決まった。また来月には京都で議定書発効を祝うイベントが開催される。でも本命の第二約束期間については討議にすら入れず、5月にそのための「政府専門家セミナー」を開くそうなんだけど、これも米国の横槍で、COP11には直接反映させない単なる勉強会となったそうだ。

H教授― なにも決まっちゃいない。EUや環境省は京都議定書の延長線上でさらなる厳しい数値目標を目指しているみたいだけど、経産省や産業界は米国と歩調を合わせて、数値目標は補助的なものとし、メインを技術援助と技術開発に持っていきたいようだ。

(脱・化石燃料社会超長期ビジョンの必要性・可能性)

H教授― もちろん経産省や米国はけしからんと思うけど、第二約束期間云々以前に数十年単位、例えば二〇五〇年を目標とした脱・化石燃料社会のビジョンを作らなければいけないとしみじみと思った。 EU諸国ではそうしたものをつくっていて、英国では二〇五〇年までに排出量を現状より六十%カット、フランスは七五%カット、ドイツは二〇二〇年までに対九十年比四〇%カットを国家プランとして定めているそうだ。そして、炭素税はもちろんのこと、今年になってからEU域内の企業間★排出権取引の制度も動き出した。

★各企業や国ごとに排出限度量を決めておき、それ以下の排出量のときは、その差分を売れるし、購入したほうは、それを自社や自国の排出削減分としてカウントできるという制度。日本では企業ごとの排出限度量を決めていない。

H教授― あれは目先の変わった普及啓発の一手段に過ぎない。超長期の目標年次のビジョンを定め、それに向けてのシナリオとプログラムを考える・・・そういう計画手法が日本にはいままでなかったもんなあ。そして持続可能、つまりエネルギー・資源抑制型社会の未来像を描かなければいけない。もちろん、そのときに経済や社会、雇用や交通体系などもろもろのことがどう変わっているか、変えなきゃいけないかを示すことが必要だ。

H教授― ただ、全総ってのは、あ、いまは六全総だと思うけど、要は各省の長期計画を寄せ集めて修文しただけだから、どれほど意味があるかは疑わしい。ま、変な開発の旗印がなくなることはいいことだけでど、それに代わるビジョンが必要だってことさ。

H教授― もちろん五年、十年ごとの見直しは必要だし、その時点でそうしたもので実用化したものを取り込んでいかなきゃならないけど、現時点で実用化のメドがたたないもの、例えば核融合だとか、高速増殖炉だとか、メタンハイドレードだとか、炭酸ガスの固定・廃棄だとかいった超楽観的な技術要素はそうしたビジョンに入れることは厳禁だ。

H教授― もっとも基礎的なデータである人口見通しですら願望が入り混じってデタラメだ。ぼくの住んでいる市では一時期人口が急増し、総合計画では二〇一〇年の想定人口を二〇万人とした。最近になって、これじゃむつかしそうだというので、下方修正して一三万人にしたんだけど、残念ながら一一万人でストップ。多分こんごは減り続ける一方だよ。

H教授― 定量的なものじゃないけど、国連大学の安井先生の発表された「シナリオ・低エミッション都市」は参考になるよ。(http://www.yasuienv.net/LowEmissionCity.htm

(大増税時代と炭素税)

H教授― うん、先月決まった与党の税制改正大綱では来年度から定率減税の段階的廃止が決まったし、諸般の情勢からは、二、三年後の消費税アップはまちがいなさそうだ。大増税時代に入りそうなんだけど・・・

H教授― だれだって増税はいやだよ。炭素税だって朝日新聞の世論調査では反対が賛成を上回ったくらいだ。 炭素税の話は別にするとしても、日本は八〇〇兆円もの借金を未来の世代に抱えているんだもん、或る程度の増税は仕方ないと思うよ。もっとも歳出の方ももっと落とさないとダメだよね。とくに公共事業なんてのは、数年間凍結ぐらいするくらいの覚悟がなきゃダメだよ。でも、そっちは相変わらずの大盤振る舞いだもんね。

H教授― ま、なんだかんだいっても二、三年後には導入必至だと思うけど、基礎産業界が徹底して反対の音頭をとったからなあ。

H教授― 税率が低すぎてCO2抑制にならないというのがひとつ。これは前回もいったからパスしよう。

H教授― いくら税率が低くてもエネルギー多消費産業の鉄鋼などの基礎産業界には負担が大きく、国際競争に負けて、その分中国などでの生産量が増える。中国などでの排出抑制技術、つまり省エネ技術はまだまだ低いので、中国での二酸化炭素排出量が急増し、結果的に全地球での排出量が増えてしまうというものだ。

H教授― うん、それはそうだと思うよ。付加価値の小さいものの製造は人件費がより低い国に流れるのは当たり前で、そうなれば排出量が増えるのは仕方がなく、だからこそ先進国での排出削減と★CDMが重要になってくるんだ。 途上国が或る程度豊かになるまで削減数値目標を押し付けることはできないとボクも思うよ。つまり全球的な温暖化対策がはじまり功を奏するようになるのは数十年先ってことだ。うまくいったとしてね。

★先進国が途上国を援助して途上国からのCO2排出を削減した場合、その削減量を援助国の削減量としてカウントできるという京都議定書で定められた制度。

H教授― それは錯覚で前出の安井先生はじつは米国は超巨大な途上国だといわれる。だから日本の第二約束期間へのスタンスは先進国へ向かうか、巨大な途上国へ向かうかの岐路ということになる。

H教授― ま、一種のレトリックだろうけど、イラク侵攻などと併せ考えると、言いえて妙だと思うよ。第二約束期間での日本の温暖化対策は炭素税とCDMが中心で、外国との排出権取引はあてにせず、むしろ国内で実施するのが急務だと思うよ。

H教授― どっから排出権を買うんだ。ロシアや旧東欧圏だって、ぼちぼち経済復興がはじまるだろう。ホットエアーなんてあてにならないし、しちゃいけないよ。 でも排出権取引は国内では有効だと思うよ。そのためには発生源に排出上限を割り当てることが必須になるけど、また経産省や産業界が反対するだろう。これを突破できるかどうかだな。 来年度政府予算案では、環境省の新規予算で自主参加型排出権取引制度の試行が決まった。これへの産業界の対応が試金石だな。

(三位一体改革と来年度環境省予算案)

H教授― そりゃ、現場を知らないものの言い分だ。実際にはとんでもない混乱を招いている。それに、あっというまに自衛隊のイラク派遣、そして期限がきたあとの派遣延長だってやっちゃったじゃないか。

H教授― とんでもない、ぼくはいちどだって派遣反対なんて唱えたことはない。

H教授― もちろんだよ。イラクの混乱をほうっておくわけにはいかないから、大賛成だよ。ひとつだけ条件があるけど。

H教授― ブッシュのイラク侵攻はとんでもない許されざる戦争犯罪だと公然と認め、盟友が犯したその罪滅ぼしのための人道支援だと明言することだ。

H教授― たしかに、ごみ処理施設や浄化槽については、全面的な財源委譲による補助金廃止は食い止められたけど、従来の補助金は大半交付金ということになった。

H教授― はは、わからない。環境省だってどうすればいいか、考え中なんじゃないかな。

H教授― 環境監視の補助金は税源委譲でなくなっちゃった。 それから国立公園施設整備補助金もなくなり、こんごの国立公園内の施設整備はすべて直轄ということになった。このことが日本の国立公園行政に与える負の影響はとてつもなくおおきいと思うよ。 一方、国定公園施設整備の補助金は交付金化されたけど、これも中身は考え中じゃないかな。 でもって環境省の予算は約一割の減額になったし、環境省にとっては「惨身痛い改悪」にはちがいない。

★NOT IN MY BACKYARD 廃棄物処分場のような施設が必要なのはわかるが、そういう迷惑施設を自分のところにつくられるのは真っ平ゴメンという住民のエゴ意識。

H教授― うーん、そう聞こえるか。それはボクの不徳のいたすところだな。 要は税源委譲は徹底的にすべきだし、そのうえで開発に関わる公共事業なんかは地方の自己責任とすべきなんだけど、環境だとか教育だとか弱者救済に関しての切り捨てをさせちゃいけない仕組みがいるってことなんだ。それがないままの三位一体改革だったから反対した。 もちろんガチガチに国が地方を縛るってのは反対で、地方の創意工夫を最大限生かさなきゃいけないよ。そういう意味で交付金というのをうまく生かしてほしいね。

(アクテイブ・レンジャー生まれる)

H教授― そうだなあ。アクテイブ・レンジャーというのができることが決まった。

H教授― 国立公園のレンジャーって知ってるよね。

H教授― 職業としてのレンジャーはそうだね。レンジャー要員として採用した自然保護系技官全体を指す場合もある。その場合には、霞ヶ関などにもレンジャーがごろごろーといってもたかが知れてるけどーいることになる。

H教授― うん、その部分はボランテイアやアルバイトに頼ってるんだけど、そこを担う任期制の職員、つまり非常勤国家公務員をアクテイブ・レンジャーとして来年度は六十人採用するそうだ。期間は一年で最大四年まで更新できるそうだ。 先行して二人を試行で公募したそうだけどなんと何百人と応募があったそうだ。

H教授― かれらのメイン業務をなににするかだね。違反行為摘発のパトロールか、ビジターセンターに拠点を置いたインタープリターかだけでも相当違うからねえ。違反行為を片っ端から摘発なんてして、その後始末はすべていままでのレンジャーがやるなんてなると、業務がストップしかねない。 ま、一つの公園で何十人という規模になれば、いろいろ分業できると思うけど。

H教授― 競争率は高いし、将来の身分保障はなにもないよ。それに通勤で通えるところに住んでないと、多分宿舎なんてないだろうしなあ。 それでも日本の国立公園行政に新たなスタートをもたらすかもしれない。正規のレンジャーだって、いまや現場管理はU種職員に任せる方向みたいだから。

H教授― うん、昔はレンジャーはT種の技官が中心だったけど、七、八年前からT種は本省要員として少数に絞り、現地要員として大量にU種技官を採用しはじめた。U種ってのは、もともとは短大卒を対象にした試験区分なんだけど、有名無実化し、ほぼ全員が大卒になり、レンジャーの世界ではいまや大卒どころか院卒もごろごろいるみたいだよ。時代が変わったということなんだろうなあ。

H教授― はは、大量たって知れてるさ。九〇年代に入ってから部門間配転という形で毎年営林署の職員を受け入れてたんだけど、かれらが毎年たくさん停年でやめていくから、その分受け入れ人員にある程度余裕ができてきたんだ。

H教授― そうはいかない。県や市町村と一体になっての公園管理というのが昔からの国立公園のポリシーなんだけど、その根っこのところが、地方分権法以来おおきくゆらぎ、今回の「惨身痛い改悪」で、息の根をとめられた。 おまけに来年度から地方自然保護事務所がなくなってしまうんだ。新たな国立公園像をつくりあげられるかどうかだねえ。

(地方環境事務所誕生!)

H教授― そう、全国に十箇所ほど地方環境対策調査官事務所があるんだけど、そこと合体して全国で七つの地方環境事務所という地方支分部局ができることになった。

H教授― え? ボクはそんなだいそれた構想なんて考えたことないよ、当時は地方支分部局ができるなんて夢にも思ってなかったし。

H教授― 地方環境対策調査官事務所長より格が高いからそうなると思うけどね。もっとも昔とちがって、指定職なんかじゃないし、そういう意味じゃランクもあがらないみたいだけどな。 そりゃあ、数人の部下しかいなかったかつての国立公園管理事務所長が、何十人という職員をもち、いくつもの課を持つ地方環境事務所長になるんだから、組織的にはすごいと思うけど、問題はこの事務所がなにをするか、できるかだね。

H教授― さあ、昔は地方環境情報の収集というのが主たる役割で、ボクも行きたかったよ。

H教授― そんなことはない、必要な情報のほとんどは県経由で先に入ってきたから、ほとんど盲腸みたいなものだった。でもねえボクの同期が行ってたんだけど、昼間は新聞の切抜きばっかりでほとんど残業ゼロというのがうらやましかった。

H教授― それでも地区自然保護事務所と同じフロアで隣り合わせのところなんか見ているとその差は歴然としているみたいだよ。片っ方は毎晩残業で、片っ方ははやばやといなくなるらしいから。

H教授― マサカ。地区自然保護事務所の業務を二つの課で引き継ぐ以外に、温暖化や廃棄物問題をやるらしく、廃棄物の課や温暖化対策の課もできるみたいだ。

H教授― さあ、いまその議論を環境省でやってる最中じゃないかな。とくに廃棄物は一廃は市町村、産廃は都道府県と権限がはっきりしているから、普及啓発や県域をまたぐ広域産廃の対応以外になかなかむつかしいんじゃないかな。 昔、マスコミがしきりに言ってた産廃Gメンなんてのは、本気でやるんなら警察からの出向職員を受け入れでもしないと、とてもじゃないけどむつかしいと思うよ。

H教授― うん、そうならせないためにも、大胆に本省業務を下ろす必要があると思うよ。

H教授― そりゃそうだ。いまの地区自然保護事務所も大都市に下りているところが多いけど、もっと徹底的になる。 一番古い国立公園事務所だった日光、箱根はいまではそれぞれ北関東と南関東の地区自然保護事務所ということになっているけど、こんどは関東地方環境事務所として統合されて、埼玉に下りるみたいだし、上高地の入り口の島島という辺鄙なところにある中部地区自然保護事務所は、中部地方環境事務所として名古屋に下りるみたいだ。阿蘇になる九州地区自然保護事務所は熊本市に下りて、九州地方環境事務所になる。いくつかの地区自然保護事務所は残るけど、それは地方環境事務所の出先になる。

H教授― だから現場はU種職員が中心になるんだろう。このまま行けばほんとうに優秀で自然が大好きな連中はT種など見向きもせず、全部U種のほうに行くことだってあるかもしれない。ボクだってU種を志望してたね。

H教授― ・・・・

H教授― ああ、外来生物法の話だな。話してやりたいけど、ぼちぼち時間切れだ。このつぎにしよう。

H教授― 無責任な放言するよりいいだろう。

(平成一七年一月三一日)
参考:H教授の環境行政時評第二四講(EICネット、平成一七年一月)また本稿の一部は加工して同二五講(同二月)に用いる予定。