環境漫才への招待

H教授のエコ講座「岐路に立つ環境行政」

(京都議定書発効!)

H教授― うん、2月16日には発効して、歴史的な第一歩だというので、京都や東京など各地でいろんなイベントが催された。 でもねえ、問題はいままでの「温暖化対策大綱」を改定し、来年度早々には地球温暖化対策推進法の規定による「京都議定書削減目標達成計画」として閣議決定することになっているんだけど、肝心要の環境税の行き先が見えないんだよね。まったく浮かれている場合じゃないよ。

H教授― まあ、役人のやることだから、土壇場のウルトラC、お得意の数字合わせで「達成計画」を決定するんじゃないかな。環境税の方は、例えば石炭石油税や揮発油税みたいな既存税制を組み替えて、一部を環境税と銘打ち、実際には増税、とくに企業増税にはならないようにするとかね。

H教授― ぼくに言ったって仕方がない。そりゃあ、京都議定書なんてのは単なるスタートであって、問題は2013年以降の第二約束期間なんだけど、これのほうは国際的にも国内的にも白紙状態で、下手すりゃチャラになってしまうかもしれない。まさに岐路に立つ環境行政だ。

H教授― いやそれほど明らかなわけじゃない。

H教授― そんなのがわかるほど、科学は進歩してないよ。大体温暖化問題は科学的に不確定な部分が多数残されているんだ。しかも徹底したCO2排出削減なんてすれば経済の大きな足枷になるのは決まりきっているんだもの。

H教授― そうさ、科学的に100%確実なのは大気中の温室効果ガスとりわけ二酸化炭素の濃度上昇だけといっていい。温暖化が進行しているというのは大多数の研究者の見解だけど、頑強な否定論者もまだいるみたいだ。温暖化が進行しているけど、それは温室効果ガスでなく、太陽の磁場変化によるという研究者もいる。温暖化がこんごどの程度進行していくかについても、その予測には大きな幅がある。温暖化による影響に関してもさまざまな予測があり、かつてのような大幅な水面上昇はみられないとする予測の方が多数派のようだ。それに温暖化してなにが悪いという論者もいるし、温暖化が農作物全体にとっていいという話だってある。

H教授― 化石燃料はじつはマントル深層部からのガス上昇によるもので、事実上無尽蔵だなどという非化石燃料説もないわけじゃない。

H教授― もちろんその可能性はゼロじゃない。でも人類の運命を左右する大問題かもしれないし、その可能性の方がおおきそうだ。だとすればいま手を打たなければ間に合わないことも確実だ。だからこそ、幾分かの科学的な不確実性は承知の上で、ノン・リグレット政策(後悔しない政策)を取らねばならないんだよ。 だいたい、大気の組成を人為で変えるなんてあっていいわけがない。だから大胆な排出削減をとくに先進国は経済水準を下げてでも行わなきゃいけないと個人的には思うよ。ま、給料が下がるのは勘弁してほしいのも事実だけど。

(富栄養化と光化学スモッグ)

H教授― うん、ところで富栄養化に関してはボクは革命的な新発見をしたぜ。

H教授― そう。「水質における富栄養化と大気質における光化学スモッグとの間における構造的親和性」なるものを発見した。これは革命的な発見だぜ。

H教授― 富栄養化の原因はN、Pだといわれているけど、N、Pといったって存在形態はさまざまだ。Pはおおむね燐酸だけど、Nだったらアンモニア、硝酸、亜硝酸、有機窒素といっぱいある。またN、Pのどちらかを押さえたらいいという制限因子論よりも、健全な海のNP比はどうあるべきかなんて議論があるよね。

H教授― 光化学スモッグの場合とまったく同じ構造なんだ。 光化学スモッグの原因物質もNOxと炭化水素(HC)の二つがあって、HCのほうは存在形態が何万とある。そしてNOxとHC比がやはり問題だ。

H教授― 光化学反応にあたるのが、硝化反応や自浄作用や食物連鎖などの自然循環といえる。で、オキシダントにあたるのが、赤潮だね。でもその実体はシャトネラだとかの藻類で、それこそ種類もいっぱいあるじゃないか。おまけに予測もむつかしいし、季節性もある。対策もむつかしく、産業界が最後まで規制に抵抗したという点まで同じだ。これを構造的親和性といわずして何という。こんごはこういう構造を踏まえて政策を展開しなくちゃいけない。まさに岐路に立つ環境行政だ。

H教授― 頭の固いレフェリーが認めるわけないじゃないか。だから、レフェリーのいない本誌でこうして発表しているんだ!

(生物多様性と外来生物法)

H教授― ああ、外来生物法の話だな。「特定外来生物」の指定の第一陣にはブラックバスの一種のオオクチバスを入れない方向で調整していたんだが、最終段階で大臣が記者会見で突然入れるって話をして急転直下入れるってことになったってやつのことだろう。ボクは霞ヶ関官僚の高等戦術かと一瞬思ったんだけど、本当のところはよく判らない。でも、ま、いいことじゃないか。でも、この話は瀬戸内海に直接関係なら省こう。

H教授― じゃ、ちょっとだけだぜ。そもそも話は92年に遡る。それ以前から「生物多様性の保全」ということがしきりにいわれるようになってたんだけど、この年、気候変動防止枠組条約だけでなく生物多様性保全条約が採択され日本も加盟し、翌年には発効した。そのなかでエイリアンつまり外来種(移入種、侵入種)の導入の防止や制御が謳われていたんだ。

H教授― 生態系の破壊を防ぐってことだね。長年かけて形作られた地域固有の生態系を人為により安易に破壊しちゃいけないってことだ。 地球環境問題の解決は公害問題のような技術対策だけではダメで、森林の保全だとかの生態系保全との両輪でやらなければうまくいかないって認識がようやく定着したんだ。 そういう意味では水質保全と生態系保全の両方を視野に入れた瀬戸内法なり瀬戸内海基本計画は先見の明があったね。

H教授― で、外来生物に戻るけど、これからは生態系を破壊するおそれのあるような外来種は「侵入の予防」「初期段階での発見と対応」「定着した生物の駆除・管理」という三段階のアプローチで対応しようということになった。 そしてこの条約を踏まえて生物多様性国家戦略というものがつくられた。最初の国家戦略は各省の既存施策を羅列しただけのものだったけど、02年に改定された現行の国家戦略では、三つの危機、即ち「開発による破壊」と「管理の減少による自然の質の変化」、つまり里山保全だよね、そして第三の危機としてこの外来種問題を挙げているんだ。

H教授― そう、去年の6月に外来生物法、正式名称は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が公布されたんだ。 この法律では、生態系などに大きな影響を与えているもの、今後はそうなる恐れのありそうなものを「特定外来生物」として政令で指定し規制しようとするものだ。

H教授― うん、野外に侵入・定着するおそれのないものまで規制できないし、農作物だとかペットだとか有用なものもたくさんあるからね。 だから専門家の意見を踏まえて、とりあえず6月の法施行に合わせた第一次指定で40種ほど選定する運びになっている。

H教授― そうそう、ほかにもセイヨウオオマルハナバチなども論争になっているみたいだ。

H教授― うーん、種類にもよると思うけど、或る程度定着してしまったものは、実際問題としてムリじゃないかな。当面は国立公園の中核部だとかの地域に限定して駆除するのが精一杯だと思うよ。むしろこの外来生物法によって安易に外来生物を持ち込んじゃいけないって精神をPRできることの効果のほうが大きいと思う。

H教授― 第一陣には入っていないみたいだ。海の場合、非移動性のもの以外は外来生物って概念自体それ自体が成立しにくい。それに海の生態系ってのは陸域や陸水の生態系と構造が根本的にちがいそうな気がする。海の生態系保全を考えるなら、まずは水際線をこれ以上いじるな、自然海岸や藻場干潟やさんご礁をこれ以上埋め立てるなってのが基本線。公有水面埋立法は公有水面埋立禁止法にして、きわめて例外的な場合のみしか埋め立てを認めないという仕組みにしなきゃいけないと思うよ。それができるかどうか、まさに岐路に立つ環境行政だ。

(地方環境事務所誕生!)

H教授― 予算案のボクの評価についてはEICネットhttp://www.eic.or.jp/index.htmlを参照してもらうとして、昔の国立公園管理事務所、いまの地区自然保護事務所がなくなって、地方環境事務所ができることになった。

H教授― そう、地区自然保護事務所は全国に11ある。一方、全国に9つの地方環境対策調査官事務所というのがあるんだけど、この二つを合体させて全国で7つの「地方環境事務所」という地方支分部局ができることになった。その代わりにボクの古巣、本省の水環境部が環境管理局に統合されて、「水・大気環境局」に改称されるそうだ。瀬戸内海国立公園を管轄していた山陽・四国地区自然保護事務所はいま岡山にある。こんどはそれが中四国地方環境事務所になるんだけど、どこになるかはわからない。

H教授― そうなんだけど、例外的に全域を山陽四国地区自然保護事務所が見ているし、それはこんごとも変わらないだろう。

H教授― そりゃあ、数人の部下しかいなかったかつての国立公園管理事務所長が、何十人という職員をもち、いくつもの課を持つ地方環境事務所長になるんだから、組織的にはすごいと思うけど、問題はこの事務所がなにをするか、できるかだね。地方分権時代を迎えて、この事務所をどう展開させていくか、まさに環境行政は岐路に立っているといって過言でない。

H教授― マサカ。地区自然保護事務所の業務を二つの課で引き継ぐ以外に、新たに廃棄物担当の課や温暖化対策の課もできるみたいだ。

H教授― さあ、いまその議論を環境省でやってる最中じゃないかな。とくに廃棄物は一廃は市町村、産廃は都道府県と権限がはっきりしているから、普及啓発や県域をまたぐ広域産廃の対応以外になかなか難しいんじゃないかな。 昔、マスコミがしきりに言ってた産廃Gメンなんてのは、本気でやるんなら警察からの出向職員を受け入れでもしないと難しいと思うよ。

H教授― さあ、まだ決まってないだろう。石油特会のカネがだいぶ増えたから、細々した、というかいろんな業務が考えられると思うけどね。

H教授― うん、そうならせないためにも、大胆に本省業務を出先に下ろす必要があると思うよ。あとねえ、個人的な希望をいわせてもらえば、瀬戸内法を所管する瀬戸内室ってのが省庁再編前にはあったんだけど、この業務をぜひ中四国の地方環境事務所に下ろしてほしいね。もちろん瀬戸内法の瀬戸内海地域ってのは近畿、九州にまたがっているけど、一緒に面倒をみるんだ。

H教授― 連絡係として瀬戸内海担当官をひとり置いておけばあとは、TV電話や遠隔会議で十分だ。そして瀬戸内法行政と瀬戸内海国立公園の管理をもっと密接に関連させるべきだと思う。

H教授― なにをバカな。キミみたいな怠け者が環境省に就職できるわけがない。

H教授― どういう意味だ!

H教授― ・・・(黙って帰路に発つ)

(平成17年2月20日執筆)
(EICネットの拙稿を参考にしました)