環境漫才への招待

京都議定書発効と生物多様性 ― 時報五十号を祝して

H教授― いよいよ今号で南九研時報も五十号、桑畑さんもたいへんだったろうなあ。

H教授― さっそくの口撃か。顔とアタマと口の悪さは天下一品だねえ。 で、この四九号と五十号の間に記念すべきエポックメイキングなことがあった。なんだかわかるか。

H教授― ちがうよ、バカ。

H教授― このウスラバカ、本誌のレゾンデートルは環境問題だぞ。環境問題でなんかなかったか。

(愛知万博雑考)

H教授― うーん、まあ、それも一つかな。じゃ、最初にそれをやるか。ところで、キミは行ったのか。

H教授― ホワイトナイト? ホリエモンVSフジ・サンケイグループ騒動で出てきたコトバじゃないか。キミその意味がわかって使ってるのか。

H教授― うん、どうした?

H教授― いろんなところからクレームがついてその話は結局つぶれて、おおきく計画は見直したよ。

H教授― そんなの気にするほうがおかしい。自治体は地域振興を第一義的に考えるのは当然で、民間企業が儲けを第一義的に考えるのと同じだもん。結果として環境保全に資すればいいんだ。政治家は人柄がよくても政策が悪ければなんにもならない。政治とか行政とかはすべて結果責任なんだ。

H教授― そうじゃないのは趣味の世界。ボクだって環境役人になったり、大学で環境を教えているのは第一義的には食うためだもの。食うためだからこそ、プロであり、プロだからこそある種の責任が生まれ、途中で投げ出すことが許されないんだ。NGOやボランテイアだけでは世界は回っていかないぜ、もちろんかれらの信念や善意はわかるし、貴重だとは思うけど、それだけじゃだめなんだ。

H教授― お、気の利いたセリフ知ってるじゃないか、マルクスだな。ただ、愛・地球博でボクが気にしているのは、これに投じた資源やエネルギー、オカネが長期的に見て回収できるだけの結果をもたらすかどうかなんだ。

H教授― この博覧会を見て、どれほどライフスタイルが変えられえるだけのインパクトが与えられたかどうかだ。

H教授― だけどほとんどの人が「ふーん」と見るだけで、なにも変わらないんだったら意味がないし、壮大な無駄遣いということになる。もちろん入場料がばんばん入ってそれで結果として黒字になり、それを環境保全事業に充当するならそれでいいんだけど。 でも新聞なんかで見る限りは、技術楽観主義へ人々を赴かせる危険性があるように思う。燃料電池、水素化社会だとかへの過剰期待を抱かせかねない。

H教授― そりゃそうだけど、それだけによりかかってしまったらダメだと言ってるんだ。物理的・経済的欲望を自制しつつ精神的に充足した生きかたを模索する意識を醸成できるかどうかだ。本誌を隔月刊でだされることに情熱を燃やされている桑畑さんをみてみろよ。

H教授― でも一方じゃあ、弁当持込は禁止するし、コンビニでもお握りのような質素なものは売らせてないらしいよ。こういうのは、明らかに「愛・地球」だとか「自然の叡智」とかいうテーマに逆行しているし、見直すべきライフタイルと反対方向へ行っているような気がする。コイズミさんは弁当持込禁止を指示したらしい。たまにはいいことするんだな。ポピュリスト(大衆迎合主義者)の面目躍如たるものがあるね。

H教授― いまのところ予定はない。それに大阪万博、つくば科学博、沖縄海洋博にも行かなかったから、これだけ行くってのもなあ。

H教授― お祭りや人ごみはあまり好きになれない。だからTDLだってUSJだって行ってないんだ。

(道東・早春賦―世界遺産)

H教授― 十数年ぶりに早春の道東を回ってきたんだ。網走国定公園、阿寒国立公園、釧路湿原国立公園などなどだ。

H教授― なんで残雪のある早春の北海道に石拾いなんだ。

H教授― (苦笑)あいかわらず減らず口だけはかわらないな。まあ、一週間キミの顔をみずにすんでせいせいしたよ。

H教授― 道東の自然公園を一利用者としての立場から実感しようと思ったんだ。

H教授― (渋い顔)ずうっと沖合いに流出したみたいで、せっかく砕氷船に乗ったのにカケラも見えなかった。で、その翌々日釧路にでて、レンタカーで釧路湿原を回り始めたら、季節外れの猛吹雪に遭遇。あっという間に十センチくらい積もってしまい、ほうほうの体でホテルに引き上げた。なごり雪なら風情もあるが、なごり吹雪じゃあなあ。

H教授― 人妻とだ。

H教授― バカ、誤解するな。最愛のミオを置いて、人間の妻と行ったという意味だ。連れて行けと無理矢理せがまれたんだ。

H教授― いや、一日だけは根室の近くへ行こうと思ったんだ。

H教授― でも吹雪の余波で二時間しか寄れなかったうえ、雪がいっぱいでロクなものが採れなかった。

H教授― なんだ、そりゃ。

H教授― うん、そこの自然保護事務所長はHクンといってボクの三代か四代あとに鹿児島県の課長をやったことのある後輩なんだ。かれや事務所の何人かと飲みながらいろんな話を聞かせてもらった。ちょうど、知床の世界遺産をめぐる地元の会議が終わったところでね。

H教授― 世界遺産条約ってのがあって、自然遺産と文化遺産と二種類に分かれている。熊野古道は文化遺産のほうだ。自然遺産は日本では屋久島と白神山地の二つが登録されているんだけど、ほかにも名乗りを挙げているところがいっぱいあって、候補地を三つにしぼり、最終的に政府が推薦したのが知床だった。

H教授― うん、政府が推薦したものをIUCN(世界自然保護連合)が諮問機関になって審査するんだけど、海域の保護体制に問題ありと指摘されたんだ。確かに欧米と違って日本では海域の保護規制は弱いからなあ。

H教授― 日本の国立公園の問題はいろいろあるんだけど、その一つに海域の保護規制が弱いということがある。欧米ではエスチュアリーといって河口周辺の浅海域の保護に熱心なんだけど、日本の国立公園は景観保護からスタートしているうえ、各省の縦割り行政の中で、自然保護とか生態系保全の観点からの規制はほとんどできなかったんだ。国立公園の前面一キロの海域はおおむね国立公園にはなっているんだけど、ほとんどの場合「普通地域」で「特別地域」に指定できない。普通地域だと大規模な埋め立てなんかの開発についても届出を義務付けているだけでね。

H教授― 思うわけないじゃないか。自然公園法では許可制の特別地域は陸域に限るってあって、厚生省時代からそれをなんとかしたいというのが念願だったんだけど、がんとして関係各省がいうことをきかなかったんだ。ようやく 年になって陸域の「特別保護地区」に相当する「海中公園地区」っていう制度ができたけど、指定できたのはさんご礁の一部だとかの点みたいなものでね。

H教授― 埋め立てなんかの場合、国立公園の前面海域は「普通地域」だけど、「特別地域」の陸に接する部分の改変にひっかけてなんとか規制しようとしたり、「普通地域」の届出に対しても自然公園法に規定する「措置命令」をちらつかせたりして歯止めをかけようとしてた。また、自然公園以外でも公有水面埋立法のアセスでいろいろ口出しはしてきたけどパンチがもうひとつねえ。

H教授― キミキミ、もっと品のいい言葉遣いをしたまえ。 ま、海域の保護といってもいろんな観点があって、水産資源保護の観点からは水産庁系列の規制があるんだ。水産資源保護法だとか或いは都道府県の漁業調整規則だとかね。

H教授― 漁業を阻害するような行為に関してはね。ただ漁業のもたらす環境へのインパクトをだれがどうやってチエックするかだ。海中公園地区以外は生態系保全の観点からの規制はほとんどないといってもいいんじゃないかな。そこをIUCNは衝いてきたんだと思うよ。とくに海棲哺乳動物の保護に関してはクジラの例(→第三十四号)をみてもわかるように欧米は異常に神経質なんだけど、知床じゃトド漁なんてのもやってるからな。

H教授― 前面一キロの海域について、漁業者、漁業団体の同意のもとで海域管理計画を5-10年内につくり、自主管理措置により保護するとしていたんだけど、もっと早く、もっと広くできないかということだったようだ。それへの回答期限が今月末で、そのための関係者の最終会議が開かれていたんだ。

H教授― マサカ。そんな修羅場があるなんて知ってたら「おーい、元気かあ。飲みにいくか」なんて電話できなかったよ。

H教授― で、ようやく沖合い三キロまでの海域管理計画を3年以内に策定するってことで基本合意がえられたとのことだ。夏には登録の可否が決まるらしい。 この東北海道地区自然保護事務所はこの自然遺産問題のほか、釧路湿原の自然再生事業だとかで毎晩深夜まで残業でたいへんらしい。アタマが下がる思いだったよ。 でも情報公開しつつ、ひざ詰め談判で自治体や漁業者団体などの地元合意をとりつけるという手法は、こんごの国立公園管理にも生かせると思うよ。

H教授― キミ、またマスコミの論調にそのまま乗ってるな。

H教授― 残業時間管理をしてないだけじゃないの。カラ残業のひともいるだろうけど、それ以上のサービス残業しているひともいっぱいいると思うよ。 給料が高いだとか変な手当てがあるったって新聞社やTV局、銀行の給料とは段違いだもんなあ。 国だって大都市は物価が高いからっていって、大都市手当てなんてのがあって、ボクも恩恵に与かったけど、これもちょっと考えるとおかしな制度だけど、こちらのほうはだれもいわず、大阪市だけがスケープゴートになっちゃってる感じだな。 ま、景気の悪いときは役人叩きをしておけばいいって庶民の劣情に媚びたものだって気がするなあ。もちろん役人の側もおかしなところは直さなければいけないけど、役所を叩くなら、まず垂れ流しの公共事業だとか赤字三セクだと思うよ。

H教授― キミが万博なんていいだすからだ。もっと五十号記念にふさわしいトピックがあったろう。

(京都議定書発効!)

H教授― 京都議定書発効に決まってるだろう!

H教授― うん、長かったねえ。ほんと、このまま流れるんじゃないかとヒヤヒヤしたけどね。でも、意外とそうなることを期待してた向きがあるかもなあ。

H教授― 温暖化対策法に基づく、「京都議定書目標達成計画」案が発表された。ようやく折り合いがついたんだね。産業、運輸、民生の三部門別の削減目標案が示されているんだけど、産業部門の削減目標がアップされた。こえrからパブリックコメントを募集して、5月中に閣議決定される予定だ。

H教授― もちろんだよ。ただ、これはあくまで目標だから、実際に削減されるかどうかは別だ。

H教授― 経済産業省も環境省も達成可能だといっているし、細田官房長官も達成される可能性が高いと言っているよ。ボクは不可能だと断言しておくけどね。

H教授― それがこんどの「達成計画」案では「真摯に検討すべき問題」とあるだけだし、また目標達成のための追加的予算措置のことにもまったく触れてないんだ。だからこれからも水面下の攻防が続くんだろうな。まあ、落としどころとしては既存の税制の一部を環境税として組み替えてー具体的にはエネルギー財源である石油石炭税の一部だとか、揮発油税などの道路財源の一部だねー実質的な増税、とくに企業増税とはしないみたいなところかもしれないが、環境省はそれじゃだめだってがんばったみたいだ。

H教授― うん、それはそのとおりで、だからこそ環境省もつっぱねたんだろう。でも強い政治のリーダーシップが働かず、従来型の調整で行くとすれば、それ以上はむずかしいかもしれないな。従来型の調整とは、名をとって実を捨てるというかその逆かはわからないけれど、ある省庁の一人勝ちにはさせないということだ。 コイズミさんも郵政民営化なんかよりも、こっちのほうをきちんとしなきゃあな。

H教授― もう温暖化対策法改正案を上程しているよ。そうすることで自主的な排出削減を期待しているんだろう。それにいずれ日本でも企業間の排出権取引制度の構築が必至だと思うけど、その場合のキャップ(割当排出量)を決める際の重要なデータにしようということなんだろうな。

H教授― うん、じつはそこが大問題なんだ。現にどんどん増えてるものなあ。 とりあえずは電気代やガス代のシステムを変えることだと思うな。使用量が倍になれば使用料金は三倍になるような累進料金制を採用するとともに、戸別のメーターに、更には個々の電気製品やガス製品に累積使用料金の表示を義務付けるとかさせるくらいの大胆な方策をしなくちゃいけないな。

H教授― いまは暴論に聞こえるかもしれないけど、第二約束期間のときには当たり前になっているかもしれない。

H教授― (暗い顔で)またぞろサマータイムの話がでてきた。超党派の議員立法で今国会に上程するそうだ。こんどは京都議定書という水戸黄門の印籠があるからひょっとしたら実現するかもしれない。

H教授― 夜遊び時間が長くなるだけで、そんなエネルギー消費の抑制につながらないと思うよ。ずうっと昔日本でもやったけど、世間に混乱をもたらすだけだからというので廃止されたものなんだ。

H教授― う、うるさい。とにかく反対だ! だいたい、サマータイムを導入すれば、事前準備に相当の手間と莫大な費用がかかるんだぜ。一説では公的機関だけで年間一千億円もかかるといわれている。そこまでしてやる意味があるかどうか・・・

(今国会、環境法案概説)

H教授― 例によって廃棄物処理法の改正案がまたでている。

H教授― そう、産廃についての規制強化。岐阜での大規模産廃投棄事件、それに中国に輸出した廃プラに再生できないものが混入していた事件に対応した改正だ。もう改正に次ぐ改正で、つぎはぎだらけになってしまい廃棄物処理法はプロ以外はわけがわからない法律になってしまった感があるね。だからこの法律への質問は桑畑さんにしてくれ。もちろん規制強化は賛成だけど。

H教授― 湖沼水質保全特別措置法の改正。都市近郊の湖沼は典型的な閉鎖性水域でなかなか水質が改善しないというんで水質汚濁防止法の特別法みたいな法律を二十年前につくったんだ。それから以降も何回か改正して規制を強化してきたんだけどそれでも効果がはかばかしくないというので、さらに規制を強化するというものだ。今度の改正で、目新しいものとしては湖辺環境保護地区というものを導入、水質浄化能力をもつ植物なんかの採取に届出義務を課そうとするものだ。公害対策を行うにも、公害規制対策だけではダメで、生態系保全の視点を導入しようという動きが活発だけど、そのひとつだね。

H教授― そうそう、葦は富栄養化のもとであるN,Pを吸収し成長するし、葦原は小魚の産卵や生育、避難場としても貴重な存在なんだ。でも誤解されがちなんだけど、葦は保護するだけじゃダメで定期的に刈り取らなきゃいけない。

H教授― そりゃそうさ、ほうっておけば枯れて分解してまたN,Pを放出する。だから刈り取った葦の活用法を考えないと、ごみの増大につながってしまう。昔は屋根を葺いたりしたんだけど、いまじゃそんなことはしないからなあ。せいぜいヨシズくらいだろう。焼酎をつくるという話もあったけど、どうなったかなあ。

H教授― 葦原だけじゃなく、藻場・干潟だとかも含めた海、湖沼、河川の水際線周辺の保全・復元を行うスキームを全国的に考えなきゃいけないと思うよ。ところで葦は「よし」と読んだり「あし」と読んだりするけど、物事の「良し悪し」の語源だそうだ。

H教授― うるさい、で、最後のひとつが「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律」だ。 これは新法だね。オフロード走行、つまり工事現場だとか田畑だとかで使用され、公道を走らない特殊なクルマの排ガス規制を行うというものだ。

H教授― そうでもないらしいよ。普通のクルマは厳しい排ガス規制をしてるから、台数ベースではわずかでも、負荷量ベースじゃ、NOxの四分の一、粒子状物質の八分の一を占めているらしい。

(米軍飛行場の辺野古沖移設問題、急展開す)

H教授― 二月の終わりに鹿児島の南、沖縄に行ってきたんだけど、普天間飛行場の辺野古沖移設問題が急転回しそうだ。

H教授― いや、ゼミの卒業旅行だったんだ。その際、辺野古に立ち寄って、反対運動をつづけている人たちのテント村に差し入れしてきたんだけど、急転回の話がつぎの日の新聞にでていたんだ。

H教授― もともと普天間飛行場を辺野古沖に移設するんだって計画だったんだけど、移設にはスムースに行ってもーまあ、行きっこないけどー十年以上の期間を要するというので、米側が待てないと言い出した。政府部内でも他の移設地がないか内々検討しだしたって記事だ。

H教授― そんなこと公式に認めるわけないじゃないか。ただ現地の反対運動のほかIUCNの勧告がでるだのといったジュゴン保護、さんご礁保護の運動の広がりの影響があるのは確かだと思う。

H教授― むつかしいコトバを知ってるな。十人くらいの中高年の人たちがいたけど淡々としていたよ。だって新聞にでたのはその翌朝だったもん。

H教授― うん、普天間は宜野湾市にあるんだけど、嘉手納基地というのは、その北の嘉手納町にあって、なんとその町の面積の八割以上を占めているんだ。米軍機の夜間・早朝の航行差し止めと損音被害の賠償請求を求めた集団訴訟の判決が先月だされた。飛行差し止めは権限なしということで却下されたけど、国に二十八億円の損害賠償を命じたんだ。

H教授― いや、差し止め請求が認められなかった点や、賠償の範囲が過去の判例より狭かったというので、とても勝訴という雰囲気じゃないね。沖縄のひとたちの政府不信や反米感情は高まる一方じゃないかな。

H教授― まったくわからない、在アジア米軍の再編・再配置問題の行方次第だろうな。 ただ、他の代替地を探すたって、どこへ持っていっても猛烈な反対運動は必至で、政府財政も逼迫しているから札束でほっぺたをひっぱたくようなこともむつかしい。かといって、現状のまま放置するわけにはいかない。 もはやこの問題は単なる沖縄の環境保全の問題じゃなく、日本の安全保障をどう考えるかという日本全体の問題になってきているんだ。

H教授― そうそう。キミは総合政策研究科の一応は一員なんだから、環境だけじゃなく、総合政策的視点を忘れちゃダメだ。 で、辺野古ってのは観光地じゃない寒村でね、付近に昼飯を食うところもないから、「勤労者いこいの村」ってのに行ってきた。山頂にあってヤンバルの照葉樹林や海岸を見渡せる絶景を楽しみながら、食事したんだけど、ほとんど貸し切り状態でホント閑散としていた。 この「いこいの村」というのは旧雇用促進事業団が雇用保険の掛け金から融資を受けて作った施設だけど、どこも大赤字で地方自治体に売りに出しているという代物だ。鹿児島でも指宿の近くで随分以前に破綻したのがあったな。 このての施設をいろんな省庁で七十年代から八十年代にかけて作り出したけど、まあまあうまく行ってるのは老舗の国民休暇村(環境省)くらいで、あとはバブルが弾けていらい軒並み崩壊状態だね。

(バスに乗り遅れるな ― 特定外来生物ドタバタ劇)

H教授― ああ、外来生物法の話だな。「特定外来生物」の指定の第一陣にはブラックバスの一種のオオクチバスを入れない方向で調整していたんだが、最終段階で大臣が記者会見で突然入れるって話をして急転直下入れるってことになったってやつのことだろう。ボクは霞ヶ関官僚の高等戦術かと一瞬思ったんだけど、本当のところはよく判らない。でも、ま、いいことじゃないかな。

H教授― 読者じゃなくて、キミが無知なだけだろう。ま、いいか。じゃ、その話をちょっとしよう。 そもそも話は一九九二年に遡る。それ以前から「生物多様性の保全」ということがしきりにいわれるようになってたんだけど、この年、気候変動防止枠組条約だけでなく生物多様性保全条約が採択され日本も加盟し、翌年には発効した。そのなかでエイリアンつまり外来種(移入種、侵入種)の導入の防止や制御が謳われていたんだ。

H教授― 生態系の破壊を防ぐってことだね。長年かけて形作られた地域固有の生態系を人為により安易に破壊しちゃいけないってことだ。 地球環境問題の解決は物理・化学的な技術対策だけではダメで、森林の保全だとかの生態系保全との両輪でやらなければうまくいかないって認識がようやく定着したんだ。

H教授― ネコをバカにするな。近縁のイリオモテヤマネコやツシマヤマネコは固有種だ。 ま、それはともかくとして、イネのように田んぼや畠で栽培するもので、自然の山野に生育する恐れのないものは自然の生態系に悪影響を与えないので、外来種とはいっても目くじらを立てる必要はない。また、自然の生態系に入りこんだものでも、歴史的にすっかり定着してしまったものはいまさらどうしようもないよ。 でもこれからは生態系を破壊するおそれのあるような外来種は「侵入の予防」「初期段階での発見と対応」「定着した生物の駆除・管理」という三段階のアプローチで対応しようということになった。 そしてこの条約を踏まえて生物多様性国家戦略というものがつくられた。最初の国家戦略は各省の既存施策を羅列しただけのものだったけど、二〇〇二年に改定された現行の国家戦略では、三つの危機、即ち「開発による破壊」と「管理の減少による自然の質の変化」、つまり里山保全だよね、そして第三の危機としてこの外来種問題を挙げているんだ。

H教授― ブラックバスやブルーギルの問題、それにタイワンザルとニホンザルの混血問題なんかが世間を賑わせていたよ。メダカまでが外来種にニッチ(生態的地位)を奪われそうになりレッドデータブックでは絶滅危惧種になったって騒がれた。 その頃から規制方法が検討されてきて、ようやく去年の6月に外来生物法、正式名称は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が公布されたんだ。

H教授― 環境省がつくったリストでは二二〇〇種ほど挙げているって話だ。

H教授― ん? さあ、どうだろう。HPで公表してるはずだから自分で調べたら? ところで、キミの知っている外来種で、近年に入ってからたちまち日本全土に広がったものを挙げてごらん

H教授― いや、キミがいま挙げたものなんかは、それなりに定着してしまったから、現時点ではこれ以上の大きな影響が生じることはないと思われているし、そこら中に蔓延しているので駆逐は不可能。現時点で大きな影響を与えているもの、今後はそうなる恐れのありそうなものを「特定外来生物」として政令で指定し規制しようとするものだ。

H教授― 「我が国の生態系、人の生命若しくは身体又は農林水産業に被害を及ぼし、または及ぼすおそれ」があるものに限定されている。野外に侵入・定着するおそれのないものまで規制できないし、農作物だとかペットだとか有用なものもたくさんあるからね。 だから専門家の意見を踏まえて、とりあえず六月の法施行に合わせた第一次指定で四十種ほど選定する運びになっている。

H教授― そうそう、ほかにもセイヨウオオマルハナバチなども論争の対象になっているみたいだ。

H教授― 自然保護派以上に内水面の漁業者にとっての死活問題みたいだ。だから、条例でキャッチアンドリリース禁止などを決めた例もあるほどだ。一方、釣業界ではバスフィッシングは救いの女神みたいなものだったらしいし、何百万といる釣人の抵抗も強く、とりあえず、第一次指定は先送りになりそうだったんだけど、最後にひっくりかえっちゃって、第一次指定に間に合うことになったってわけだ。バスに乗り遅れるなってことかな(笑―自分だけ)

H教授― ボクは岡釣以外やらないからかもしれないけど、断固指定すべきだ派だ。

H教授― うるさい。ところでこのオオクチバスってのはすごく貪欲らしくって、ふつうだったら、或る程度のところでいろんな他の魚などエサとなる生物の数と均衡して安定するんだけど、こいつは片っ端から食べ尽し、最後は自分の稚魚まで食ってしまうという話もあるみたいで、現に東北のため池ではそういうところもでてきてるという報告がインターネットででていた。だとしたら、やっぱり第一次指定は当然じゃないかな。

H教授― そりゃそうだ。ブラックバスになんの罪もない。密放流する人間に罪があるだけでね。 それにブラックバスやブルーギルが生態系破壊の元凶みたいな言い方がされているけど、同等かそれ以上に水際線をコンクリートで固めたり、水辺植生を破壊したり、廃水を流入させたりする人間の責任があることを忘れちゃいけない。 ブラックバスだけをスケープゴートにしちゃいけないとは思うよ。

H教授― うーん、種類にもよると思うけど、或る程度定着してしまったものは、実際問題としてムリじゃないかな。当面は国立公園の中核部だとかの地域に限定して駆除するのが精一杯だと思うよ。むしろこの外来生物法によって安易に外来生物を持ち込んじゃいけないって精神をPRできることの効果のほうが大きいと思う。

H教授― うん、それは将来の課題として積み残しになったようだ。ま、そういう研究者の主張は主張としてわかるし、発光間隔の違う西日本のホタルと東日本のホタルを混在させてしまうのは問題だけど、「ホタルの復活」なんて考えているところで、近くの水系に生息する同種のホタルを持ってくるのまで規制するというのはちょっとどうかと思うなあ。

H教授― あまり厳格厳密になりすぎると、かえって人と生き物との距離を大きくしてしまうことになる。過ぎたるはなんとやらとか、角を矯めてなんとやらと言うじゃないか。 まあ、富士には月見草―これも外来種だけどーが似合うなんていうけど、キミには厳格とか厳密とかいうコトバはおよそ似合わないな。

H教授― そうか、厳格とか厳密とかいうコトバは桑畑さんにぴったりかもなあ。時報のような個人誌は普通は面倒くさくなって発行もルーズになるんだけど、桑畑さんはきちんきちんと隔月刊を維持され五十号まで出されたんだから、びっくりするよ。信頼されるはずだよねえ。

H教授― うるさい! ま、桑畑さん、いずれにしても五十号おめでとうございます。

(平成一七年四月三日)
★EICネットの拙稿「H教授の環境行政時評」二十五―二十七講をアレンジし全面加筆しました。