日本の行政システムにおける「ミテイゲーション」

イ 「ノーネットロス原則」の政策課題

アでみてきたように、「ノーネットロス原則」が規範化されることは、「回避」の決定を行うために最低限必要であり、環境保全の観点から好ましいのは当然であるが、実際問題としてすべてのハビタットにその原則を適用することは必要性に乏しく、現実的とはいえない。たとえば、減少率(現存面積/成立可能面積)により、対象とするハビタットの種類や地域を定めるような手法が考えられる。また、「ノーネットロス原則」を担保するものとしてオフサイトとの交換比率の確立も不可欠になる。

さらに、日本においてはハビタットの複雑さから、アウトオブカインド交換を可能にしなければ「ノーネットロス原則」の貫徹は困難と考えられる。しかし、「ノーネットロス」を目指す根拠は当該ハビタットの減少事実とそれをくい止めることの公益にあり、アウトオブカインドはそれを逸脱してしまい二律背反となる。

また、ミティゲーションは生態系や希少動植物保全のために検討されているが、「自然との触れ合い」の観点から検討すれば、オフサイト代償ミティゲーションの場合は、何十キロも離れたところに「代償」されてもその価値は(たとえ自然環境の価値が同価であっても)きわめて低くなってしまうという問題が残る。