日本の行政システムにおける「ミテイゲーション」

ウ 「ノーネットロス原則」とミティゲーション・バンキング

ミティゲーション・バンキングは、オフサイトでの代償ミティゲーションを円滑に行うための仕組みであるが、まずは「ノーネットロス」を前提としたミティゲーションの義務づけそのものを先行させる必要がある。開発事業者や開発官庁サイドを含めた国民的合意が得られること、民間セクターへの義務づけが憲法上の問題点をクリアーできること、が前提である。

社会的・技術的に比較的容易なのはWetlandやEstuary、水際線と背後地の改変、埋立に関してであるが、日本では今日公共セクター以外は通常行えない仕組みになっている。(ただし、埋立地を分譲するスタイルは容認、これはこれで問題)

公共セクターが海岸のWetlandやEstuaryに関して自発的にオフサイトの代償ミティゲーション(人工海浜、藻場干潟造成)を行う可能性は存在するし、そうした事例も出現している。

昨今の景気対策のための補正予算がそれを加速させているのであるが、一方で従来型の公共事業にも膨大な予算が投じられている。公共セクターに関しては、理念として「ノーネットロス」を打ち出すことは好ましいが、アでみたような第一段階での「回避」を最優先して検討するシステムを構築しないと、公共事業費の大幅の増額と国公債乱発による未来世代へのツケ回しを加速させるおそれなしとしない。

民間セクターの開発に関していえば、保護地域内の開発やごく一部の条例・要綱アセス対象事業以外は「ノーネットロス」原則を担保することはもとより、「回避」→「低減」を優先的に検討させるというミティゲーションのコンセプト自体が憲法上の財産権との関係で社会的に合意されることは容易ではないと思われるので、まったく別の角度からのアプローチも必要であろう。